えぐしろ日記

剛さんが大好きみたい。( ・ω・ )/剛さんのお芝居情報には、尋常でない喰いつき方をします。

恥ずかしついでに。

わー、他にも出てきた!
この際、恥ずかしいもの載せついでにこっちもアップ。

ええと、これは『200x年 翔』(デビューずっと前のおこちゃまキンキさんが共演した映画です。)のDVDを見た後に、「うわぁあぁ〜ん、哲也ぁあぁ!(;へ;)」となって、勝手に後日談を書いたものです。

当時の自分の熱さが蘇って、なかなかお恥ずかしい一品です。
しかも、多分あとちょっとで完成だったろうに、案の定、最後尻切れトンボです。最後まで仕上げておけや〜、当時の自分!

読み返したら、『200x年 翔』を見たくなってきた。(笑)
これから見ようかな〜。 ================

 俺は別に聖人君子というわけじゃない。
 子供らの一人しか助けられないとしたら、必ず翔を選ぶだろう。きっとためらうこともほとんどない筈だ。ためらったフリをしたとしても、選ぶ答えは一瞬にして分かっているから。
 「あなたはよくやったわ」
 優しい妻の労りの言葉。
彼女の言うとおりなのだろう。
 山で見失った3人。悔やむことはいくつもある。俺が道を間違わなければ、あそこで彼らを放置しなければ。
 時が経ち、俺の中の胸を焼く後悔は、淡い痛みへと変わっていった。
 確かに俺は、自分にやれるだけの全てをやったのだ。あれ以上のことはどうしたってできなかった。
 それでも俺には、繰り返し見る夢がある。夜の暗闇でよみがえる声がある。
『僕を置いていかないでね・・・』
 押し殺したかすれた声。震える指の感触。彼の最後の願い。果たせなかった約束。
「あなたがあの子たちを救えなかったのは、仕方なかったのよ」
 俺は聖人君子じゃない。
 全てを救えなかったことが、苦しいわけじゃない。
 夢を見るんだ。
 救いたくて救おうとして、かなわなかったあの子の声が、耳を離れないんだ。
 哲也。
 結局、あの子が取り乱すことは一度もなかった。
『みんなにこれ以上迷惑かけたくないから』
 狂い始めた夜、一人で別の建物に移ったときに、小さな声で彼はそう言った。
 たった14歳だった。いや、実際には4歳。身体や心が成長すると言っても、経験は積めないはずだ。たった4歳で。
 彼はどこで思いやるということを学んだのだろう。
『すいません、迷惑かけて』
 思えば思うほど不思議だ。
 自分のことで精一杯だったはずなのに。
 山で失ったもう一人の少年を思い出す。
『連れてくって、約束したじゃねぇか!!』
 彼の反応が当たり前だったと思う。不安と恐怖に押しつぶされそうになりながら、頼りは俺しかいなかったのだから。
 『一人で平気です』
 俺は馬鹿だ。一人で平気なわけがない。なのに俺はその言葉を信じた。
 いや、違う。俺は彼に甘えたんだ。
俺は疲れ切っていた。自分らと翔だけでいっぱいいっぱいだった。だから俺は。
 『僕を置いていかないでね・・・』
 彼の最後のぎりぎりの弱音。置いて行かれても仕方ないことを、彼は知っていたのだ。彼の言葉は頼みでなく、願いですらなく、それはほとんど祈りのように語尾が震えて消えた。
 だから俺は、・・・彼を置き去りにできなかった。


 鬱蒼と茂る新緑の山道を一台の自動車が横切っていく。
 あれから十年。翔太は窓を開けて空気を吸い込みながら思いを馳せた。あのときは、鮮やかな緑がただただ息苦しくて仕方なかった。山道を吹き抜ける風の心地よさに気づく余裕もなく、恐怖と混乱だけに追い立てられていたのだ。
 十年はすぐ過ぎたようで、そこには確かに過去を振り返るだけの余裕を与えてくれた時間の流れがあったのだろう。翔太は1人で今、静流の地へと向かっていた。
 あの人類と相容れない存在との戦いの末、本来の年齢通りの姿に戻った息子を抱えて家へたどり着いた。その後、自分たちは異様な数日間を語ることはほとんど無かった。何度か翔太が夢にうなされたときに、妻が言葉少なに慰めてくれたのが、唯一のあの日々への接点だった。無かったことにしたいのか、あまりに戻ってきた日常生活と折り合いが悪かったのか、その両方かもしれない。戦いを共にした別の家族とも時折連絡は取っているが、それはお互いに息子や娘がその後何事もなく暮らしているかの確認をとるためのようなものであり、年数を重ねるごとに疎遠になってきている。
 翔太の息子である翔も今年で14歳。あの後、何事もなく、時には風邪を引いたり転んで怪我をしたり、とにかくまったく普通に成長している。来年には早くも受験生だ。近頃では親に対して口数も少なくなり、年頃の少年らしく無愛想に振る舞うことが多い。幼い頃は母親にべったりだったので妻は寂しそうだが、翔太にはそんな普通の成長過程をみせてくれることが何よりも安堵の種であった。
 そう、14歳。思い出さないわけはなかった。10年前、急速に成長を遂げた翔の面立ちが今の息子から蘇り、あの過酷な旅を翔太に思い起こさせた。
 誰もが口にしないことによって、出来事は無かったことになるのかもしれないと翔太はそれまで漠然と思っていた。事実、その10年間というもの、彼の中であの旅は遠い夢の出来事のようになっていた。完全に忘れ去ってしまうわけではなかったが、わざわざ思い起こすこともないもの。翔がごく普通の成長をしてくれることもあって、そういう風に記憶は処理されていたのだ。
 しかし、翔が長ずるに従って、彼の面影から10年前を思い出さないわけにはいかなくなって、翔太はやっと認識した。
 出来事は、無かったことになどならない。記憶も完全に無くなることなどない。
 ただ、時の流れは確かに人の記憶をぼかし、癒してくれるようで、事件直後の多大な徒労感までは蘇ることはなかった。それよりも懐かしさを伴っていたのには、翔太自身が驚きを感じた。10年の歳月を経て、記憶を思い出として捉えることができるようになったということなのだろう。
 思い出してみると、翔太は過酷だった旅をもう一度きちんと振り返りたいと思った。正確に言えば、振り返らなければならないと思った。今の翔太の原点とも言える消えることのない出来事と、記憶と向き合うことが今ならできると思ったのだ。
 そうして今、翔太は静流へと向かう途中の山にいた。
 「この辺りだったかな・・・」
 翔太は呟いて、バックミラー越しに後部席に積んだ4つの花束に目をやった。

 ガサガサと枝をかき分けながら、舗装されていない道を車でしばらく入っていく。これ以上進めないというところで車を降り、翔太は汗を袖で拭いながら山道へと踏み込んでいった。あの日も暑かった。翔太は、心の底では泣いていた当時の心情を、否応なしに思い出させられながら歩いた。長い間人の踏み込んだ様子がなく、自由にはびこった枝や蔓を掻き分けていると、不意に開けた場所へと出る。顔を上げると、屹然と目の前に岩肌が立ちはだかっている。忘れられない場所だ。ここへ辿り着いたときの、全員の絶望的な顔が一瞬当時のままに蘇り、翔太の胸を苦いものが満たす。
 あの時、あの時子供らだけを残していかなければ−−−。
 ちら、とそんな言葉が頭を掠めるが、翔太は頭を振った。そんな問いかけは10年前に、言葉が意味を持たなくなるくらい繰り返し自分に放った言葉だ。そして、それに解決も正解もないことは、今ではよく理解していた。
 翔太は腕に抱いた花束を3つ、静かに地面へと降ろした。ここで見失ってしまった3人の子どもたち。誰よりも不安を抱え、翔太を頼り、救われることなく命を落とした赤ん坊たち。
 手を合わせ、静かに黙祷を捧げた。

 その村に足を踏み入れた瞬間、翔太は目眩を感じた。
10年の月日など無かったように、村の有様は当時のままだったからだ。ダムになると言う話も耳にしたことがあったが、その話はたち消えたのだろう。荒れた学校、朽ちた小屋、時が止まったように静かな村。翔太は廃校となった校舎へ足を踏み入れる。パキ、と小さな音を立てて靴の裏でガラスの破片が砕ける。あまりにも変わらない風景に、自然と足は教室へ向かかった。目指す教室の扉をくぐった途端に、翔太は息を呑んだ。みんなで−−−あの時は確かにここにいた、みんなで食事を取るために、一つの机では足りなくて、もう二つ机を寄せて食卓を作ったのだ。そうやって寄せ集められた机が、そのままの状態で10年の時を越えて、今、ここにあった。
 翔太は慌てて手で口を塞ぎ、目を堅くつぶって壁にもたれた。慟哭してしまいそうだった。あの時に聞こえた蝉の声が、今も翔太の耳に届いている。今、耳に響くのは今年の夏地面から出てきたばかりの蝉の声なのに。
 どれくらい経ったのだろう。動悸が治まり、呼吸が整うのを待って、翔太は目を開いた。
落ち着いて見てみると、机の上には真っ白に埃が積もり、鉄でできた足もずいぶん錆びついている。絶対的な時の流れが、そこにはあった。時は否応がなしに流れたのだ。だから自分はここにいる。
 校舎から出て、日射しの眩しさに目をすがめつつ、次に翔太が向かったのは、なかば崩壊しかかった小屋だった。扉の前に立ち、一瞬躊躇してからそっと開く。あの時使用した錠前があるかと思ったが、それは見あたらなかった。しばらく立っていると、小屋の中の暗さにも目が慣れてくる。地面の上に抜け落ちた白っぽい羽根が、ここがかつて鶏小屋に使用されていたことを教えてくれる。あの時、自分は哲也をここへ閉じこめたのだ。意志を失って凶暴化すること恐れ、みんなから離して監禁して欲しいと言ったのは、哲也本人だった。あの子はどんな顔をしていたのだったか。もういまでは曖昧な印象しか覚えていない。震える声と指先と、言葉にできない思いを湛えて翔太にしがみついた、黒く柔らかな髪の感触だけがいまだ脳裏に焼き付いている。
 翔太は薄く黄ばんだ鶏の羽根をつまんだ。ここにも平等に時の洗礼はやってきている。
 
 翔太が小屋から出ると、日射しは傾いてだいぶん穏やかになっていた。そろそろ車へと引き返さなければならない。翔太は深く息を付き、手にした花束を握り直すと、涼しげな音のする方へ向かった。たどり着いたのは村を横切る小川である。翔太の心の一部をずっと置いてきた場所である。
 いまも昔と変わらず川は流れている。なんとか向こう岸へ渡れないことはない浅さと川幅。そう、あと少しで哲也を負ぶったまま渡りきることができたはずの川。哲也が翔太の背の上で凶暴化しなければ。凶暴化した生命が、水に弱くなければ。
 翔太は包み紙をほどいて、花束を川の真ん中へ撒き散らすように投げた。花はすぐに下流へと流れ去っていく。
 翔太は、目をつむり、両手を合わせた。
 『僕を置いていかないでね・・・』
 10年も前の、恐怖を必死で押し殺していた彼の、最初で最後の祈りが、かつてないほど鮮明に耳に蘇り、翔太は睫毛を震わせた。
 救えなかった。
 引きつるような悲哀が胸を突いて、目から唐突に溢れる。救いたかった。救いたかった。
自分は彼を救いたかったのだ。
 大人の役割だとか、責任だとか、そんなことではなかった。あの時、もしかしたら妻の百合よりも遙かに翔太の心に寄り添っていてくれたかも知れない、彼の手をしっかりと握りしめたかった。あの時、子どもたちは全員救わなければいけない対象だった。翔も百合も彼ら自身のために当然救いたかった。だからこそ頑張り続けたのだ。だが、翔太が自分自身のために救いたかったのが、哲也だったのかもしれない。
あの小さな手を握りしめて、安心しろと言ってやりたかった。そして、何の心配もない元の赤ん坊に戻してやって、心穏やかな普通の日々を彼の元に与えてやりたかった。誰よりも翔太自身のために。
「おじさん、何やってるの?」
背後から掛けられた声に、翔太はビクリを身を震わせて振り返る。こんな場所に人がいるなど思いも寄らなかったのだ。
 そして、呆気にとられる。自分がいま目にしているものの意味が分からなかった。
 10年が、過ぎたのではなかったのか?
 翔太の目の前には、哲也がいた。
「あの…」
 訝しげに翔太を伺う少年の声に翔太は我に返る。時間が10年分巻き戻されたわけではないのだ。失ったときの哲也に比べて目の前の少年は、いまどきの子どもらしく髪型も服装もこざっぱりとしている。しかし。
「ああ、ごめん。知り合いの子に似ていたから驚いてしまって」
 少年を怯えさせないように笑顔を作って応える。しかし、視線は顔から離すことができない。
 似ているなんてものではない。落ち着いてみたところで、目の前にいるのは哲也自身としか思えなかった。柔らかそうなクセのある黒髪、少年らしいりりしい眉、印象的な大きな瞳。曖昧だったイメージが不意に色づいたようにハッキリとそこに実在していた。
 躊躇いがちに少年は翔太を見上げた。
「おじさん、いま、花を川に流してたよね。…なんで?」
 少年の頬は微かに紅潮していて、緊張しているようにみえた。期待と不安を含んだ表情だ。
「ああ…、昔ここで子供が亡くなってね。」
「おじさんの子供?」
「いや、そうではないが、多少縁があった子供なのでね」
「そう…」
 翔太の返事を聞いて、少年は明らかに落胆した顔をする。
「君は?……なんでこんなところに一人でいるの」
 “君は誰?”とは聞けず、替わりの言葉を投げかける。
「僕は…、手がかりがないかなと思って。タクシーでここまで来たんですけど…」
「手がかり?」
 はい、と少年は頷く。
「僕、10年前にここで拾われたんです。親のこと、少しでも分からないかなと思ったんですけど…場所が場所なだけに、おじさんを見てビックリしました」
「え?」
「おじさんが、僕の父親かもしれないと思って…。そんなタイミングのいいこと、あるわけないですよね。僕たちぜんぜん似てないし」
 照れたように笑う。
「あ、僕が拾われたの、ちょうどここなんですよ。一度施設の人にお願いして連れてきてもらったことがあるんですけど、おじさんが花を投げたちょうど向こう岸」
 どくん、と翔太の胸で心拍音が響く。
「なんでだか、サイズの合わない大きな服に包まれて、寝かされてたって」
「哲也」
「え?」
「君は哲也だ」
「え?違います。僕には園長さんにつけてもらった名前があって……え…?おじさん、僕のこと…知ってるんですか…?」
 間違いなく、彼は哲也だった。10年前のあの日、オゾンホールができたのは静流の上空だけではなかったのだ。大きなホールが静流のあの浜辺へ。そして無数の細かなホールがその周囲に。そのうちのひとつが、この村の上空にもでき、素粒子が降り注いだのだ。そしてそれはおそらく川を挟んだ向こう岸へ。
 無駄ではなかった。あの時、哲也を背負って川を渡ろうとしたことも、息を引き取ったかに見えた哲也を向こう岸へ引きずりあげて寝かせたことも。
「おじさん?!」
 翔太は哲也を力一杯抱きしめた。
 生きていた、生きていた!、生きていた!!